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常識は疑え

公の面前で大げさに吐露することにしました。

共和党支持者、イーストウッド作品『グラン・トリノ』に見るアメリカの闇と光(ネタバレあり)

これまでに2度、トランプ新大統領にやや批判的な内容で記事を書きましたが、

今回は、共和党支持者である、クリント・イーストウッド作品

グラン・トリノ』にスポットを当てながら2極化するアメリカを掘り下げて行こうと思います。

ちなみに、この作品が上映されたのは、2008年、ブッシュ政権時代まで遡ります。

http://www.kpac.or.jp/cms/cmsUpfile/event/20/204_img_1_b.jpg?1376026530

 トランプ支持者のような主人公

この映画の主人公である、ウォルト・コワルスキーはポーランド系の白人で、

朝鮮戦争に従軍し、帰還後はフォードで工員としてデトロイトで働き、

定年まで勤め上げた古き良きを持つアメリカ人です。

会社を定年退職した後は、庭を綺麗にすることに喜びを感じています。

デトロイトの街は空き家が目立ち、荒廃してきたことを感じさせます。

黒人には差別用語を吐き、アジアからの移民を見かけると良い顔をしません。

メキシコ移民やユダヤ人も白人の飼う犬より下だと思っているまさに保守的な男です。今回の7カ国からの入国禁止制限もまず指示していただろうと思います。

主人公の苦悩 

そんな頑固者、ウォルトですが、映画の冒頭では長年連れ添った妻を亡くしています。

そんな奥さんが、生前親しくしていた若い牧師に旦那に懺悔をさせてくれとお願いをします。

しかし、ウォルトは若造牧師の人生経験の浅さを揶揄し、自らの生と死の考えを話します。

ウォルトは朝鮮戦争に従軍し、そこで人を殺してしまったことに苦しんでいました。

アジア人(モン族)との出会い

一方同じ日、ウォルトの隣にはアジア人の一族が引っ越して来ます。

冒頭、コワルスキー家のカトリックの葬式シーンと対照的に描かれたモン族の生まれたばかりの赤ん坊に施す儀式が、2つの家に何かが起こる予感を感じさせます。

しかし、この時は両者とも、得体の知れない者を憎む。という感じでウォルトはモン族に差別用語を吐き捨てます。

モン族の姉弟スーとタオ

モン族の家には気弱な少年タオがいます。

タオは従兄弟の不良グループにそそのかされて、ウォルトが自らの誇りとして所有するグラン・トリノを盗もうとします。

しかし、それはウォルトに気づかれて阻止されてしまい、失敗に終わります。

その後日、スーの家ではタオにもう一度車を盗ませようと、

従兄弟が拉致しに来ますが、タオは抵抗し、

騒ぎを聞いたウォルトは銃を従兄弟たちに突きつけて追い払います。

スー一家に感謝されたウォルトは、次の日、大量の贈り物をもらいます。しかし、そんなお礼を想像もしていなかったウォルトは気味悪がり受け取りません。

タオの姉 スー

ウォルトは白人男とスーのカップルが、黒人の不良に絡まれているのを車越しに見つけます。白人の男は、黒人に対して、『ヨォ!ブラザー』なんて言って、友好的にその場を切り抜けようとしましたが、スーは、黒人に喰ってかかって、連れ去られそうになります。

見兼ねたウォルトはカップルを助けに行きます。ウォルトを脅そうとする不良に対して、ウォルトは銃を顔に突きつけ、不良を退散させます。ついでにカップルの男には、(黒人と)どこが兄弟なんだ!と吐き捨て、ウォルトは隣人のスーを家まで送り届けます。スーは、ウォルトの人種差別的なスラングにもひるまない活発な機転のきく女の子で、ウォルトの信頼を得ます。この直接的なコミュニケーションが、初めてウォルトから人種差別的な思考を取り払いました。

心を人の判断基準に切り替えたウォルト

このスーの事件をきっかけに、タオの持つ心の優しさや、ウォルト自身が血が繋がった実の息子でも心が全く通い合っていない事実というエピソードに遭遇し、ウォルトは招待されたモン族のパーティで

『どうにもならない身内よりここの連中の方がよっぽど身内に思える』

と感じてしまいます。

タオとウォルト

パーティ内で、ウォルトはスーの妹のタオを観察し、恋愛に対して臆病であるタオに説教をします。

『あの娘はお前に気があるのにお前はなぜ行かないんだ!』と。

そしてパーティの後、ウォルトの車を盗もうとしたことで一族に泥を塗ったから償いをさせて欲しいと、スーと母にウォルトはお願いされます。

2人の女性の剣幕にウォルトも圧倒され、渋々引き受けます。

 そして、ウォルトは自分の綺麗に手入れされた家と違って、

ボロボロになっているタオの家を自身に修復させることを思いつきます。

 そして、タオは目の前の仕事に全力を注ぎ、ウォルトもそんなタオを認めます。

ウォルトの病

しかし、ウォルトには誰にも打ち明けていない深刻な病を体に宿していました。

病院に行って、精密検査をするのですがその病院は看護師も医者も患者も移民だらけ。ウォルトはため息をつきます。

 その後受けた精密検査の結果は悪かったようです。

その晩ウォルトは息子の家に電話をします。当たり障りのない会話が続き、仕事が忙しいからもし大した用でなければまた今度にして欲しい。

と言われ、ウォルトは病を打ち明けようとしたのでしょうが、何も言えず電話を切ります。

古き良きアメリカ文化を理解するタオ

ウォルトは、自分たちが誇りを持って築き上げた古き良きアメリカを息子たちに理解してもらうことができませんでした。

フォードの工員として、車を製造することに誇りを持って働いて来たウォルトに対し、息子は日本車に乗り、セールスマンとして忙しく働いています。

息子に対してタオはたくさんの工具、古い車を大切に管理し、何でも修理できるウォルトを尊敬しています。

 実はそんなタオも、将来はセールスマンになりたいと考えているのですが、大学へ行くための学費がありません。

そこで、ウォルトの知り合いの建設会社に雇ってもらうことになります。建設会社で働くに当たって、ウォルトはアメリカの古き良き男の振る舞いをタオに教えます。

タオは最初は『トロ助』だったのですが、容量が良く、スラングを使いこなしてウォルトを感心させます。

文化に適応したタオを許せない人達

こうして工事現場に働きに出るようになったタオですが、白人の爺さんとつるんで、異文化を受け入れるタオを落ちこぼれた従兄弟達は許せず、タオの顔にタバコの火を押し付けるなどの暴行を働きます。

 それを知ったウォルトは、怒りを燃やします。タオを不良たちから引き離せないと、タオの将来は救えない。そう考えたウォルトは、単身不良達の住処へ乗り込むのです。

 

暴力が暴力を生む

ウォルトは、不良の一人に復讐を働き、二度とタオに近づくな!という警告を発します。

その結果不良達は、さらにその復讐として、タオの家を銃撃し、スーを身内にも関わらずレイプする。

という暴挙に出ます。

ウォルトは自分のしたことによって、更なる被害が出たこと、相手の鬼畜なまでの復讐に怒り、我を忘れて自分の家で暴れます。

その晩、事件を聞いた神父がウォルトの家を訪問します。

『私がタオならあのクソ野郎どもを叩き潰す』

神父は遠回しに、タオが殺人を犯すと警告しています。

それに対し、ウォルトは、自分の背負って来た十字架を『親友』に背負わせることはしたくないし、安易な復讐がまた復讐を生むことを危惧しました。

神父の予想通り、血気盛んな表情でタオはウォルトの家に現れ、復讐を提案します。

ウォルトはそんなタオに冷静になれ。と諭します。

また後で来るように言われ、タオは一度家へと帰ります。

神にすら言えなかったウォルトの懺悔

タオを帰した後、ウォルトは何か覚悟を決めたかのように、いつもと違う行動を取ります。

風呂でタバコを吸う。人生で初めてのオーダーメイドスーツを仕立てる。床屋でヒゲも剃ってもらう。そしてついに教会で懺悔をする。

しかし、懺悔の内容が軽いものだったので、神父は思わず

『それだけ?』と聞き返してしまいます。ウォルトは朝鮮戦争の出来事を懺悔することは無かったのです。

その後、タオがウォルトを再度訪問します。

ウォルトとタオは地下室に行き、ウォルトはタオに朝鮮戦争で得た勲章を渡します。

これから人を殺しに行くと考えているタオは、

『人を殺すのはどんな感じ?』

と質問します。対して、ウォルトは

『知らんで良い。』と一言。

すると、その直後ウォルトは地下室の鍵を閉め、タオを閉じ込めます。

タオは驚き、ウォルトにどういうつもりか問いただします。

ウォルトは、人を殺してどう感じるか?

この世で最悪の気分だ!

それで勲章などもっと悪い!相手はお前のようなガキだった!

毎日思い出す俺の気持ちが分かるか?俺の手はこういう血で汚れている。

だから、今夜は俺一人で行く。

当然タオは賛同などできません。しかし、それはウォルトのタオへの精一杯の思いだったのです。

俺は俺の関わった事に決着を着ける

ウォルトは一人で不良達の元に現れます。

 ハリー・ギャラハンのように、復讐に燃える鬼気迫るイーストウッド

ギャング達は四方八方から銃を構え、いつでも撃てる状態に。

『タバコに火を付ける』と、ダーティハリーよろしくウォルトは胸に手を入れ、手を胸から出した瞬間!

ギャングはウォルトを四方八方から打ち抜きました。

そしてウォルトは死んでしまいました。

その後到着したタオ。モン族の警察官にモン語で話し掛け、事件の概要を聞くことができました。

人種より、宗教より、尊かった友情

ウォルトの葬式で、神父はウォルトから生と死を教わった。と言う事を語りました。

生前、生には詳しくないとウォルトへ言った神父。

モン族との交流で、生とは何かを見出したのです。

そして、場所は変わり、ウォルトの遺書を弁護士が読み上げるシーン。

72年型グラン・トリノは、我が友人…タオ・ヴァン・ローに譲渡する。

豆食いメキシコ人のように車のルーフは切らず、

クズ白人のように、ペンキで炎など書かぬ事。

また、後部にカマっぽいスポイラーなど付けぬ事。あれはクソだ。

(ギャングのシビックに付いてたカマっぽいスポイラー)

http://pics.imcdb.org/16813/impala642.jpg

それさえ守れれば、あの車はお前の者だ。

愛情溢れるウォルトの暴言。そしてエンディング。

ウォルトの暴言が、男同士の友情を際立たせています。

グラン・トリノイーストウッドが描いた事

これまでのアメリカを築き上げた世代をもっと大事にして欲しい。

デトロイトは荒れ果て、息子はウォルトの想いも分からず。かつては栄華を極めた街に入ってくる文化の違う訳のわからん人種。

そりゃぁトランプ支持に回る人がいても不思議ではありません。

文化の壁や人種の壁は相手への理解を深めることで超えていける。

途中、ウォルトはモン族がベトナム戦争で、米軍を支援して、米軍の撤退後に行き場を無くした民族だと言う事を知ります。また、美味しい料理や礼を尽くす文化などを知り、訳のわからん人種が、身内のように感じると言う変化を産み出しました。

そして、ウォルトは思春期の若者に寄り添い、タオはウォルト達が築いた古き良きアメリカ文化に尊敬の念を抱きます。最後ウォルトは、彼のために自分の命を捨てる決断をしました。

美味い料理は異国に溶け込む手助けとなる。

ウォルトがパーティに参加する時も、参加の決め手は料理でした。

食とは生きて行くために重要なものであり、交流の手助けとなります。

世界を見ても、中国人のチャイナタウンや韓国人のコリアンタウンなどは、様々な国の様々な都市に存在しています。それは、中華料理や焼肉といった料理文化が受け入れられたからと推測できます。

白人層も移民だらけ

ウォルト自身もポーランド系の移民ですし、散髪屋さんはイタリア人、

建設現場の親方はアイルランド系と、実はこの国みんな基を辿れば移民だったんですねぇ。

国家より宗教よりも強さを持った友情

国から勲章を貰ったところで、ウォルトが人を殺した贖罪の心は全く晴れず、死ぬ前の教会での懺悔でも、懺悔することはできませんでした。

 彼を救ったのは若き友人タオへの想いでした。どんな正当な理由があっても若者に人を殺させたくない。ウォルトはタオに向かって苦しい胸のうちを打ち明けます。

イラク戦争、西部劇へのアンチテーゼ

悪には復讐しても構わないと言う道徳観でアメリカは動いてきました。その結果、イラク戦争は泥沼化してしまいました。劇中ウォルトは、

『俺は俺が関わった事に蹴りをつける』

と言うセリフを言っています。そのが表しているのはウォルトだけでなく、西部劇で復讐に燃える男を演じてきたイーストウッド自身の事を言っているのでは無いかと推測できます。

差別用語も悪く無いんだぜ

これでもかと言うくらい差別用語を連発する映画。だけど口が悪くたって心が触れ合えば良い人間関係が作れるんだよ。そんなメッセージもありそうです。

 

www.huffingtonpost.jp

最後に、イーストウッド共和党で、トランプを支持していますが、

近年監督として撮ってきた映画(この映画を含め)では、真実を見つけるために、

忠実にアプローチをしていると感じます。

イーストウッドには真実を見つめる映画でまだまだ社会に1石を投じていって欲しいと思います。

miyearnzzlabo.com

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